PRODUCED BY 品川女子学院
百代の過客

感染症の歴史に学ぶ

生徒の皆さん、STAY HOME週間が続いていますが、元気に過ごしているでしょうか。登校できる日に備えて、生活のリズムを崩さないことが重要です。朝は早く起き、就寝も遅くならないことを是非とも心がけて下さい。

さて、私の専門である歴史と伝染病についての話を載せます。今回のコロナウィルスの感染症と同様に、世界や日本の歴史の中では、人類が様々な感染症を克服してきた記録が残されています。

黒死病と呼ばれたペストは、初めは14世紀から15世紀にかけて流行し、当時の世界人口の22%が亡くなったと言われています。このペストの流行について、アルジェリアを舞台にして描いた小説が、現在多くの人が読み返しているカミュの『ペスト』です。

 

 

 

カミュ『ペスト』

その後もペストは世界各地で流行しますが、これを鎮静化させたのが、19世紀末日本の北里柴三郎(北里柴三郎が設立した研究所が現在の北里大学の母体)によるペスト菌の発見です。同時期に、北里の弟子である志賀潔が大腸の感染症である赤痢菌を発見しています。このように、日本人の研究の成果が世界に役立ったからこそ、日本史の教科書にも彼らの功績が記載されているのです。

しかし、黄熱病という感染症の撲滅に取り組んだ野口英世は、自分自身が黄熱病を患い、アフリカで亡くなってしまいます。現在、コロナ治療に取り組んでいる医療従事者の人達の大変さを、私達も改めて心に刻まなくてはいけません。

また、日本では幕末から明治初期にかけてコレラという感染症が流行します。それまでの日本では、寺社に祈るなどの行為が中心で、医学的な感染症対策は行われておらず、コレラを「虎列刺」と書き、中には妖怪とする絵まで広まりました。

 

虎列刺の妖怪を描いた錦絵

しかし、長崎にいたオランダの医師のポンぺや、適塾という蘭学塾を開いた緒方洪庵らの治療法が認知され、コレラの流行は日本の公衆衛生の考え方を変えるきっかけになります。この時期に出されたコレラの予防書には、「井戸水(生水)をむやみに飲まない」「換気によって部屋を乾燥させる」「生ものや傷んだものを食べない」といった現代では当たり前の対策が記されています。

その上、石炭酸(フェノール)による消毒やトイレや下水の清掃などを行い、「『虎列刺』患者の家族で看護に当たる者以外は、他に避難させ、みだりに往来することを許さない。」と、今のコロナ対策に通じることが書かれています。

 

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

 これは、大久保利通や伊藤博文を中心とする明治新政府が模範とした、初代ドイツ帝国の宰相ビスマルクの言葉です。この言葉から「賢者は経験に学ばないのか」と思われがちです。しかし、ここでの「歴史」は他人の経験や学術的な知識に学ぶことで、書籍や他人に頼らない単なる「経験」は迅速かつ的確に対応できないことを意味しています。

ジブリ映画『コクリコ坂から』に登場し、横浜国立大学に進学した風間俊もこう言っています。

「新しいものばかりに飛びついて歴史を省みない君達に未来などあるか。」

私達も歴史に学ぶ賢者となり、このコロナウィルスからの禍に打ち勝ちましょう!

2020.4.30 [百代の過客]